home > #4682B4 > 「ちょっとでも迷ったら」
ギターを弾くためには、左右両方の手が複雑な動きをする必要があります。なので、というわけではないでしょうが、利き手はあまり重要視されません。ではなぜ、世界中のギターに限らず同形式の弦楽器がことごとく、左手で音程を押さえて右手で弦をかき鳴らすようにできているのでしょうか。それは、その方が多くの人にとって自然である(弾きやすい)からでしょう。そして人類の9割前後は右利きです(いつの時代のどの地域の調査によっても、この比率が有意な差を見せた例はありません)。そこに何らかの関連性があると思いませんか。アーチェリーにおいても――利き目が絡むなどして更に問題が複雑ではありますが――同じではないでしょうか。
そんなわけで、右射ち・左射ち問題は、まだまだ考える余地があるのではと思い、これからそれを決める人に、現実問題を踏まえて考えてもらいたいと思い、こんなものを作ってみました。
ちょっとでも迷ったら
アーチェリーを始めようと思っている、左利きの人及び右利きの人へ

by nippercent mixture

アーチェリーには、右射ちと左射ちがあります。が、ほとんどの人(左利きの人も含めて)は特に問題もなく右射ちに落ち着くようです。だって、世の中の10%前後は左利きです。なのに、試合で周りを見回してみてください。左射ちの選手が10%もいますか?せいぜい3〜5%程度でしょう。しかし中には、右射ちにしようか、左射ちにしようか、はて、と一瞬でも迷ったり、一瞬ならまだしも本気で困ってしまう人もいると思います。それらの人がこの大きな二択問題に答えを出すための参考となるであろう情報をまとめてみました。

「利き手」について

アーチェリーの基本動作に、利き手はあまり関係がないという意見があります。
  • そもそも、アーチェリーの基本フォームは、生来人間に備わっているものではない。その証拠に、初めて弓を持ってすぐに「正しい」射形ができる人はいない。つまり、どちらで引こうとはじめは不自然に感じるものであり、そしてどちらであっても練習することで同じように身に付けられるものである。
  • 弓を引く筋肉(背中の筋肉)は、日常生活ではあまり使われない部位であるため、仮に利き手の腕力が勝っていたとしても、利き腕のほうが引きやすいとは限らないし、必要な筋力は弓を引いていれば自ずと付いてくる。
  • 利き手のほうが器用だ(よりよくコントロールできる)と考えると、弦をまっすぐ引いてスムーズに放す、という引き手の動作を利き手で行った方が良いようにも思えるが、アーチェリーでは押し手がブレずにしっかり固定できることが重要であり、利き手を押し手側に持ってくることで、「不動の押し手」を作り上げるほうが良い結果を生み出す場合もある。
ただし、やっぱり無関係というわけではありません。
  • 何も知らない人に、「弓を引く真似をしてください」と言うと、ほとんどの場合、利き手で引く格好をする。つまり、「正しい」フォームを身につける以前の、「弓を引く」という動作自体は、無意識のうちに(生来的に)左右が決定されていると考えられる。だとしたら、それに従うのが自然であると言える。
  • 足に役割分担がある(多くの人は、ジャンプの踏み切り足とボールを蹴る足が逆であり、それは、「利き足」(何らかの動作をする足)と「軸足」(利き足が動作をする際に体を支える足)の役割分担がなされてるためである)ように、手の場合にも、利き手が動作(弦を引いて放つ)を行い、非利き手がサポート(弓を支える)をするという役割分担が理に適っているとも考えられる。
アーチェリー選手の身体能力は、一般の人と比較して特に際立って高い部分はないそうですが、唯一、押し手(右射ちの場合、左手)の握力が、平均値と比較して高いそうです。また、2007年1月現在男子FITAシングルラウンドの日本記録をすべて保持しているY選手も、男子70m世界記録保持者のC選手も、生来は左利き(C選手は幼少時に矯正を受けている)ですが、右射ちです。その一方で、いわゆるトップアーチャーと呼ばれる人たちの中での左射ち選手の割合は、アーチャー全体における左射ちの割合に比して、高いようです(「トップアーチャーの定義が曖昧なため、データは取っていませんが)。

「利き目」について

人類の9割前後が右手利きであるのに対し、右目利きは6割〜7割と言われています。利き手と利き目(マスターアイ)の左右は、相関関係はあるようですが、一致しない場合も多くあります。しかしどちらが利き目かは必ず決まっています。まずはそれを正しく知りましょう。何も意識しないでカメラのファインダー等を覗き込むほうの目が利き目だと考えてたぶん間違いないですが、一番わかりやすいであろう判別方法はこれです。
  1. 両目を開けた状態で、遠くの一点(時計の中心など)をじっと見ます。
  2. 視線を動かさないで両手を前に伸ばし、目標物が真ん中に見えるように手で輪を作ります(右図)。両目とも開けたままですよ。
  3. この状態で片目ずつ閉じてみます。閉じたことによって目標物が輪から大きくずれたほうの目が「利き目」です。例えば、右目を閉じたら目標物がずれた→「右目利き」です。
弓を引く手と利き目の左右が一致していないと、慣れるまでいくらか苦労することがあります。右射ち左射ちを決める際に利き目を考慮するかに関しては、とても重要視したり、そうでもなかったり、人によって意見が分かれるところです。

とても重要視

  • 利き目は左右の脳の優位性に関係するもので、矯正は簡単なことではない(というか、不可能である)。コーチによっては、利き腕には一切関係なく、利き目がどちらかという点だけで、右射ちか左射ちかを決定する人もいるほどである。
  • 意識して非利き目で狙えるようになったとしても、疲れてきたときなどに不意に利き目でサイトピンを見てしまい、あらぬ方向に矢が飛んでしまう危険性もある(30mで的一つ分くらい外れます)。
  • 片目を完全に閉じてしまえば問題は起きないが、エイミングにおいて片目を完全に閉じた状態というのは決して望ましいことではない。また、利き目がうまく閉じられない(利き目でウインクができない)という人も少なからずいる。

そうでもない

  • エイミングに際して問題なく非利き目で的が狙えるようになるのは決して難しいことではなく、片目(利き目)を軽く細めることさえできれば可能である。現に、左目利きで右射ちのアーチャーは数多くいる。
  • どーしてもうまくいかない場合は、最終手段として、いつも片目に目隠しをして(サングラスの片側のレンズに紙を貼るなど)射つようにしたり、長〜いサイトピンを使って逆の目で狙うようにしてしまうという方法もなくはない。

弓具について

アーチャーのほとんどは右射ちです。近年、左利きに対する評価が見直されてきた(左利きを問答無用で矯正するという古き悪しき習慣がなくなってきた)こともあって、また、88年・92年とオリンピックで2年連続左射ちの選手が金メダルに輝いたりということも影響してか、左射ち人口も多少は増えてきたようですが、圧倒的少数に変わりはありません。左射ちだと、道具の調達には想像以上に苦労します。これは初心者から上級者までずーっと付きまとう問題です。
  • 近年はほぼ差異はなくなってきたものの、左用の弓具は、需要が少ない分割高な場合がある。またショップに行っても在庫を持っていなくて取り寄せになる場合が多い。さらには、メーカーによって、またモデルによっては、そもそも左用を作っていない場合も多々あり、選択肢は狭くなる。
  • 玉数が少ないので、中古で良い道具を見つけられることはまず期待できない。さらに、左用の弓を買ったとして、要らなくなったときに周りに貰い手がいない可能性もまた高い。
  • セッティング等の話では、ほとんどが右射ちの場合を想定して語られるため、周りの人と左右逆で考えなければならないことが多く、混乱する。マニュアル等の説明も左右逆に置き換えて読まなければならないことが多い。
  • 「左右両用」とされている道具の場合、よくよく見ると、左用として使った場合はほぼ間違いなくロゴが逆さまになってしまったりする

その他

左射ちであることは、少数派ゆえにいくらかの特殊な問題を生じます。

有利な点?

  • たいていいつも誰かとにらめっこして射線に立つことになるため、同的の人と仲良くなりやすい。試合においては、自分はその状況に慣れてしまっているからいいが、確率的に相手が不慣れな場合が多く、向かい合っている人が調子を崩してくれることがままある。変な顔をして笑わせて集中をそぐこともできる(試合でそんなことをしてはいけない)。
  • 右射ちの先輩と並んで練習すれば、実は指導が受けやすい。右射ちの後輩と並んで練習すれば、実は指導がしやすい。
  • ただ左射ちというだけで、若干目立つ

不利な点

  • 参考になる「イメージ」が圧倒的に少ない。雑誌を見ても周りを見ても、手本になるような左射ちの綺麗な射形を目にする機会などそうそうあるものではない。アーチェリーにおいて「イメージ」はとても重要なため、自分の中で理想像を描きにくいというのは上達する上で大きなマイナスポイントになる
  • インドア等、狭いスペースでの試合で、自分だけでなく向かい側の人も射ちづらい。すなわち、右射ちの選手が並んで行射する場合は、左側の人のサイドロッドが右側の人の立ち位置に多少干渉しても問題ないが、右射ちと左射ちの人が向かい合う場合は、行射中にサイドロッドが接触したら大惨事である。

結論として

妥当な線としては、「迷うのだったら、とりあえず両方試してみよう。その結果、どっちでも同じだと思ったら、とりあえず右射ちでやってみよう」という感じになるでしょうか。しばらくやってみてダメならコンバートすれば良いだけのことです。左射ちにするということはそれだけで多くのマイナスポイントを持つことになるので、「それでも!」という強い意志/理由がなければやっていけません。
ひとつ注意してほしいのは、この文章は、読む人を「迷わせる」ことが目的であり、どちらかに誘導するために書かれたものではないということです。大事なのは、自分で決めることです。人が何と言おうと、自分はこうだ!という「アーチャー気質」を持っているのであれば、それに従いましょう。
個人的な意見を訊かれたら、答えは100%はっきりしています。すなわち、
  • 手利きで目利き」→当然射ち。
  • 手利きで目利き」→射ち。
  • 手利きで目利き」→基本射ち。ダメなら射ち。
  • 手利きで目利き」→射ち。
では、私が左射ちにした理由はというと――
  • 左利きだから。
  • 利き目(マスターアイ)が左だから。
というのはもちろんありますが、一番の理由は、「左利きの矜恃」です。この点に関しては大いにアーチャー気質です。だから、誰が何と言おうと、有利だろうが不利だろうが弓具が高かろうがそんなことはまったく関係ないのです。

情報の出所・参考

@‐rchery.com(http://www.a-rchery.com/
川口和久『反逆の左腕』ネコ・パブリッシング、2001
前原勝矢『右利き・左利きの科学』講談社ブルーバックス、1989
+先生他周囲の人の話
画像:発掘!あるある大事典/#219(http://www.ktv.co.jp/ARUARU/search/arukikite/kikite4.html)

2007年4月18日改訂
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